創作ぶろぐ
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「じゃあね、おやすみ」
そう言ってトミノはニルの額にキスをした。やがてすう、すう、と彼の静かな寝息が聞こえてくると、ニルは熱した頬を両手で覆った。身体中が熱い。
恋、ではない。互いは兄弟同士である。それに、ニルは恋と言うものを表現する術すら知らなかった。
弟と生き別れたのはまだ幼い頃であった。
森へ行ってくるよ、と言ったきり、帰ってこなかったニルを、トミノが大泣きしながら捜し歩いたのは、遥か遠い記憶で、互いの中ではおぼろげになってしまっている。
しかし、弟と再会した瞬間、ニルの頭の中に暖かい雨のように降り注いだトミノとの懐かしい記憶は、のちに自身へ異常な感情を与えることとなる。
まるで飼い主に忠誠を誓う犬のように、トミノと逢う時のニルは、彼の後をつけまわし、彼の話しかしない。
それを軽く、しかし優しくあしらうトミノ、その優しさのみがニルの瞳に映っていた。
浮浪者であったニルは、トミノの家にごくまれに泊めてもらっては、洋服作りの手伝いや、彼の煎れた紅茶で茶会を共にしたりしている。
ニルはトミノの話題ばかりするので、トミノは苦笑しつつも相槌を何度も打つのだった。
そうこうしている間にあっというまに闇夜が現れる。トミノの癖であるが、就寝の前には信頼関係を築いた者のみ、おやすみのキスをする。
ニルもその中の一人であった。ただ、彼は自分以外にこの行為をされることを知らないでいる。幸いか、それとも不幸か。
トミノはニルに気を遣っているのか、もしかしたら警戒心からか、別の部屋を彼にあしらってくれた。
しかしトミノが寝静まった頃、未だに彼の部屋に居残るニルが居た。
身体の火照りをなんとか抑えると、彼の寝顔をしげしげと見つめる。
長い睫毛と紫がかった藍色の髪が、月明かりに照らされ煌めいている。
ニルは先ほどの弟のキスを思い出すと、胸がきゅ、と締めつけられるのを感じた。
恋を知らない彼であるが、欲求は人並み以上に高ぶっていた。
トミノのベッドに静かに近づくと、瞳を閉じて彼の頬にそっとキスを落とす。
ニルの頭の中が白くはぜる。愛しい、愛しくてたまらない。兄弟愛とはまた違った新たな感情。
は、と一息置くと、もう一度、もう一度と彼の額に、髪に、とめどなく溢れる想いを口づけた。
すき、すき、とひたすら小声で呟く。蒼い光にトミノの睫毛がきらきらと光ると、ニルはたまらなくなって瞼に唇を触れた。
ふと、その睫毛がぴくりと動き、ターコイズ色の瞳がうっすらと見開いた。
「…なにやってるの、兄さん」
月明かりの下で宝石のように輝いているトミノの瞳とふわりと薫る髪に、ある種の神聖さを感じた。
そうか、彼は僕の天使なのだ。誰も信じられぬ孤独な世界から、唯一自分を救いたもうた天使なのだ。ニルははっきりと頭の中でその言葉を繰り返した。
「すき、すきだよ、トミノ、綺麗だよ、行かないで」
瞳が潤んでいるニルに、若干違和感を抱くと、夢見心地に呂律の回らない言葉のままトミノはそっと彼を抱きしめた。
「大丈夫だよ、兄さん。僕が付いてるから」
合わせた身体越しにトミノの体温と、香りがゆらめく。どんどんとトミノを頭の中で神格化させていくニルを、トミノは知る由もなかった。
それだけ、トミノがニルにとって離れられぬ、依存された存在なのだ。
「ごめん、僕ごときが自分からキスなんかしたりして」
ニルの言葉になんで?兄弟でキスぐらい、とトミノは疑問符を浮かべる。
ニルにとってひたすらに重い言葉だった。天使にキスをしてはいけない。彼は弟であっても崇め称えるくらいの慈悲に満ち溢れている、彼はそう思った。
「最後のキス、させて」
そう言って床に跪くと、ニルはトミノの手を取って、その甲にちゅ、と口づけた。
こそばゆそうにトミノがくすりと笑う。
「一体どうしたの兄さん?今夜は寝ないつもり?」
おやすみのキス、もう一度してあげるから寝なよ。と、なんでもない顔でニルの額にキスをした。
ニルの体が震えている。
「ああ、大丈夫、大丈夫だよ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
逃げるようにその場を立ち去り、ニルはトミノの部屋の扉をパタン、と閉めた。
そのまま、床にへたり込む。
「トミノ…トミノ……」
きっと月明かりのせいではない。彼は本当に煌めいているのだ。
自分の中の天使であり、神なのだ。すがるものが彼しかいないニルにとって、もう、そういう風に頭で信じることしかできなかった。
「おやすみなさい…僕の神様…」
もう一度ドア越しにそう細やかに呟くと、彼は自分の部屋に戻っていった。
明日からどう接すればいいのだろう。彼の煎れた紅茶を飲みながら、彼だけ瞳の中にとじこめておけばいいのだろうか。
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ニルの中でどんどん神聖化されていくトミノくん。歯止めがきかない兄!こわい!
そう言ってトミノはニルの額にキスをした。やがてすう、すう、と彼の静かな寝息が聞こえてくると、ニルは熱した頬を両手で覆った。身体中が熱い。
恋、ではない。互いは兄弟同士である。それに、ニルは恋と言うものを表現する術すら知らなかった。
弟と生き別れたのはまだ幼い頃であった。
森へ行ってくるよ、と言ったきり、帰ってこなかったニルを、トミノが大泣きしながら捜し歩いたのは、遥か遠い記憶で、互いの中ではおぼろげになってしまっている。
しかし、弟と再会した瞬間、ニルの頭の中に暖かい雨のように降り注いだトミノとの懐かしい記憶は、のちに自身へ異常な感情を与えることとなる。
まるで飼い主に忠誠を誓う犬のように、トミノと逢う時のニルは、彼の後をつけまわし、彼の話しかしない。
それを軽く、しかし優しくあしらうトミノ、その優しさのみがニルの瞳に映っていた。
浮浪者であったニルは、トミノの家にごくまれに泊めてもらっては、洋服作りの手伝いや、彼の煎れた紅茶で茶会を共にしたりしている。
ニルはトミノの話題ばかりするので、トミノは苦笑しつつも相槌を何度も打つのだった。
そうこうしている間にあっというまに闇夜が現れる。トミノの癖であるが、就寝の前には信頼関係を築いた者のみ、おやすみのキスをする。
ニルもその中の一人であった。ただ、彼は自分以外にこの行為をされることを知らないでいる。幸いか、それとも不幸か。
トミノはニルに気を遣っているのか、もしかしたら警戒心からか、別の部屋を彼にあしらってくれた。
しかしトミノが寝静まった頃、未だに彼の部屋に居残るニルが居た。
身体の火照りをなんとか抑えると、彼の寝顔をしげしげと見つめる。
長い睫毛と紫がかった藍色の髪が、月明かりに照らされ煌めいている。
ニルは先ほどの弟のキスを思い出すと、胸がきゅ、と締めつけられるのを感じた。
恋を知らない彼であるが、欲求は人並み以上に高ぶっていた。
トミノのベッドに静かに近づくと、瞳を閉じて彼の頬にそっとキスを落とす。
ニルの頭の中が白くはぜる。愛しい、愛しくてたまらない。兄弟愛とはまた違った新たな感情。
は、と一息置くと、もう一度、もう一度と彼の額に、髪に、とめどなく溢れる想いを口づけた。
すき、すき、とひたすら小声で呟く。蒼い光にトミノの睫毛がきらきらと光ると、ニルはたまらなくなって瞼に唇を触れた。
ふと、その睫毛がぴくりと動き、ターコイズ色の瞳がうっすらと見開いた。
「…なにやってるの、兄さん」
月明かりの下で宝石のように輝いているトミノの瞳とふわりと薫る髪に、ある種の神聖さを感じた。
そうか、彼は僕の天使なのだ。誰も信じられぬ孤独な世界から、唯一自分を救いたもうた天使なのだ。ニルははっきりと頭の中でその言葉を繰り返した。
「すき、すきだよ、トミノ、綺麗だよ、行かないで」
瞳が潤んでいるニルに、若干違和感を抱くと、夢見心地に呂律の回らない言葉のままトミノはそっと彼を抱きしめた。
「大丈夫だよ、兄さん。僕が付いてるから」
合わせた身体越しにトミノの体温と、香りがゆらめく。どんどんとトミノを頭の中で神格化させていくニルを、トミノは知る由もなかった。
それだけ、トミノがニルにとって離れられぬ、依存された存在なのだ。
「ごめん、僕ごときが自分からキスなんかしたりして」
ニルの言葉になんで?兄弟でキスぐらい、とトミノは疑問符を浮かべる。
ニルにとってひたすらに重い言葉だった。天使にキスをしてはいけない。彼は弟であっても崇め称えるくらいの慈悲に満ち溢れている、彼はそう思った。
「最後のキス、させて」
そう言って床に跪くと、ニルはトミノの手を取って、その甲にちゅ、と口づけた。
こそばゆそうにトミノがくすりと笑う。
「一体どうしたの兄さん?今夜は寝ないつもり?」
おやすみのキス、もう一度してあげるから寝なよ。と、なんでもない顔でニルの額にキスをした。
ニルの体が震えている。
「ああ、大丈夫、大丈夫だよ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
逃げるようにその場を立ち去り、ニルはトミノの部屋の扉をパタン、と閉めた。
そのまま、床にへたり込む。
「トミノ…トミノ……」
きっと月明かりのせいではない。彼は本当に煌めいているのだ。
自分の中の天使であり、神なのだ。すがるものが彼しかいないニルにとって、もう、そういう風に頭で信じることしかできなかった。
「おやすみなさい…僕の神様…」
もう一度ドア越しにそう細やかに呟くと、彼は自分の部屋に戻っていった。
明日からどう接すればいいのだろう。彼の煎れた紅茶を飲みながら、彼だけ瞳の中にとじこめておけばいいのだろうか。
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ニルの中でどんどん神聖化されていくトミノくん。歯止めがきかない兄!こわい!
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